東京高等裁判所 昭和40年(ネ)163号 判決
二 建物の建築請負契約において、請負人は、特約その他材料を注文主が負担する等特別の事情の存しない限り建物の建築完成とともにその所有権を所得し、請負代金の完済までは、これを自己に留保することができ、代金の完済と同時に、注文主に対しその所有権を移転し、かつこれに符合する所有権の登記並びに引渡を得しめる義務があるところ、請負人がその保有にかかる仕事の成果たる建物を注文主以外の第三者に譲渡し、これに対し所有権移転登記をするにいたったときは、なんどきでもこれを取戻して注文主に給付しうる場合を除き、その注文主に対して負う請負契約上の債務は履行不能となったものというべく、それが請負人の責に帰すべからざる特別の事情のない限り、請負人は注文主に対し債務不履行による損害賠償義務を免れないというべきである。この場合請負代金が完済されているか否かは損害の額を定めるについて関係があるに止まり、不履行の当否には関係ない。これを本件についてみるに、成立に争いない甲第一号証と前記当事者間に争いない事実とによれば、本件請負契約においてはこの点について特段の定めはしていないことが明らかで(控訴人は建築完成とともに引き渡す約であったと主張し、右は被控訴人の認めるところであるが、右合意は代金完済の有無にかかわらず所有権を移転する趣旨まで含むものとは解せられない)、これと弁論の全趣旨をあわせれば被控訴人が前記のとおり本件建物についてあらかじめ控訴人名義の保存登記をしたのは本件建物の建築届が控訴人名義でなされ、かつ東京都から前記助成金の貸与を受ける便宜上したものであり、これをさらに自己名義に所有権取得登記をしたのは、当時まだ控訴人から請負代金全額の支払がなかったため自己の権利を確保する必要上したものであることが推認されるところ、その後被控訴人が前記の如く本件建物を東伸に譲渡し、東伸の指定する芝野孝二郎名義に所有権移転登記をしたのは、現に東伸ないし芝野が本件建物の所有権を被控訴人に戻し、又はこれを控訴人に取得せしめる如き特段の事情の認めがたい本件においては、当時控訴人が約旨の請負代金を完済していたか否かにかかわらず、被控訴人の債務を履行不能に帰せしめたものということができる。
(浅沼 間中 園部逸)